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新所長挨拶

 この度、創立10周年を機に、統合学術国際研究所所長の任務を池田善昭初代所長より引き継ぎました。新所長としての率直な今の気持ちを申し上げますと、これだけのメンバーの方々が参加されるのだから、国内のみならず、国際的にも最先端を行くアカデミックな研究会が可能になるというワクワクした気持ちとともに、責任の重さも痛感しております。

 この研究会の発足に大きな影響を与えたイリヤ・プリゴジンの亡き後、世界は大きく揺れ動いております。2007年のサブプライム問題に起因する欧州債務危機にまで至るリーマンショックと、2011年3月11日に起こった東日本大震災に起因する福島の原発事故などの大きな出来事に直面して、既存の専門知はほとんど対応できておりません。

 前者では、主流派経済学の在り方や、経済と倫理というテーマの重要性が改めて問われ、後者では、専門ごとの自然科学者の間でのコミュニケーションがうまく成り立たない事態が浮き彫りにされ、原子核物理学者の社会的責任問題が改めて問われるようになりました。脱原発を決めるにあたって大きな役割を担ったドイツの倫理委員会のようなグループが日本に不在であり、現在の三大倫理といわれる環境倫理、生命倫理、経済倫理は、大学で十分な研究や教育の場が得られておりません。

 そのような状況を打開するためには、既存の学会の限界を突破する知的結社(アソシエーション)的な学会が必要です。しかしそれは、各自の専門知を踏まえてそれを突破する学問知のイノベーション(創造的破壊に基づく知の新結合)をめざす学会であり、そうした試みが、まさに統合学を特徴づけることになります。それは、かつての還元主義的な統一科学(ウィーン学団)とは全く逆に、統合的な知を目指し、ベルタランフィ以降のシステム論や複雑系研究の成果を踏まえつつも、その限界を突破する試みとしても方向づけられるでしょう。このような方向性で、当研究所は、国内では年数回のワークショップを催し、ドイツでは年一回、ドイツ国立科学技術研究所(acatech)の後援の下で、ミュンヘン工科大学カール・フォン・リンデ研究所長のクラウス・マインツァー教授らとともに、独日統合学会大会を催しております。

 そして、こうした試みは自ずと、「人間存在の統合的理解」や「断片化された世界の統合的理解」という古くて新しい根源的問題とも、取り組むことになります。この研究所が、哲学のみならず、宗教というテーマを重んじる所以です。哲学も宗教も、断片化された知(学派)や信(宗派)に甘んずることなく、現代文明の危機に対処すべく、イノベーションされることを、私は強く願っております。

 いずれにせよ、発足当時から国際的発信を目指すこの研究所が、国内外に何らかのインパクトを与えるよう、所長として微力を尽くしたいと思いますので、志を共有する多くの方々からのご鞭撻を賜りたく、よろしくお願い申し上げる次第です。

 山脇直司(東京大学名誉教授、星槎大学共生科学部教授、ミュンヘン大学哲学博士)