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10年を振り返って

 2000年という新世紀を記念しその6月、ハノーバーEXPOを会場に国際フォーラム2000協議会主催の下、国際シンポジュウムが開催されました。三日間に亘るテーマとは、「21世紀の『思考の原型』に関する『対話』と『統合の原理』について」というものでした。シンポジュウム報告書の巻頭論文を、ノーベル受賞者イリヤ・プリゴジンは「新しい時代の幕は開くか」という主題で書いておられます。先生は、「統合の三つの局面」として、次の事をご指摘なさいました。その一つ、物理学が代表する静的な物質的世界観と進化論が代表する動的な生命的世界観を統合すること、もう一つ、自然科学と人文科学を統合すること、そして最後に、西洋の視点と東洋の視点とを統合するというものです。この三つの局面は、これまで「一つの知」として実現することがありませんでした。新世紀を境に文明の新たなページが開かれるのなら、三つの統合問題は、最重要課題です。先生によれば、ご友人F.マイヤー前ユネスコ書記長の言葉、「戦争の文化から平和の文化への移行」を実現するために、統合思考がどうしても必要なのだと考えられたのです。

        

 わが研究所の「統合」という名の由来が、「統合学術国際研究所規則」前文の『統合学』宣言には、「時代の『新しい幕開け』をプリゴジンと共に世に告げ知らせるものとなろう」と書かれています。プリゴジン先生に倣い、諸学を超えて「統合学」を確立することを目指しつつ、「戦争の文化」から「平和の文化」へと転換を図ること、それこそが研究所の建学の精神でなければならないと考えられました。雌伏三年準備期間の後、プロジェクトは実際に動き出します。最初の仕事は、研究方針を明確に示すための指南書を上梓すること、その指南書は、2003年6月に『文明の未来、その扉を開く―近代文明を超える新しい思考原型を求めて―』というタイトルで世に問うことでした。先生は、それを祝って再度、「東洋における『統合学派』-人類にとっての和解の試み―」という論文をご寄稿下さり、「散逸構造」の「時間とは混沌を構造へと変容させるもの」というお立場から、われわれの仕事を諸学における「和解の試み」と見做し、先生のブリュッセルの研究所が統合学派と考えられる点で、「恐らく皆様方の新しい研究所の親戚なのである」と書いて下さいました。その年の5月、86年間の先生の生涯は閉じられ、この論文は絶筆となりました。更にこの書では、各界の第一線でご活躍の哲学者、生命科学者、社会科学者、仏教学者等の諸先生方に、「統合とは何か」へのご高説を展開して頂きました。いずれのご論考も、統合学が文明の未来に不可欠である旨説かれています。その二年後の2005年に第二巻『複雑系、諸学の統合を求めて』が刊行され、更にその二年後、第三巻『「統合学」へのすすめ』が出版されます。こうして、統合学が徐に形を整え従来の諸学との連携が問われつつ、その学の独自性が、特に西洋の思想と東洋の思考との著しい対照性において、コントラストを明確にすることにより、両者の和解の試みが一段と加速してきたように思われます。

池田善昭(統合学術国際研究所名誉理事、京都大学文学博士)